広大、無色で無味無臭、無属性な空間に、一人の若者が

体育座りをしていた。

自分を飲み込んでいる圧倒的な極論を目の前に、

蓋をしたかのように顔はしっかりと両膝の温床に挟まれ、

実にゆっくりと息をしていた。

彼は伏っしたまま一言つぶやいた。

「さくらがきれいな季節になりました。」

彼の言う圧倒的な極論は非常に稀な

(少なくとも彼にとっては)色彩を放ち、

彼の全身をまるでバターでも塗ったかのように

テカテカなものへと進化させた。

それは一見、溌剌としたサラブレッドを彷彿させ、

何者よりも強大なエネルギーを手にしたかのように思えた。

しかし、断固、彼はそうではないと言い張った。

違う。違うぞ。と、それらのどれでもないぞと。

まず、力学的な矢印などは存在せず。

非常に論じ難し。非論の極論。

すなわち、もっと解放的で、もっと強い。

むしろ踊りなどに近い。

「てやーーー」

思い切りのよい踏ん張りとともに、

鼻の先に汗が湧く程の大声で彼は叫んだ。

すると微かに風が匂った気がした。

ちりじりだが、若葉も混じった桜の匂いがした。

そこはもう例の空間ではない。

思いの出がそで口を引っぱた気がしたが、

彼を引きとめるには些か力不足のようであった。

広大、無色で無味無臭、無属性な空間に、

一人の若者の姿はもう無い。

あるものといえば、空になったバターの容器だけだ。

 

Comments are closed.